アンドロギュノス

アンドロギュノス

 古代の最初の人間は、頭が二つに手足が四本づつあって、今の人間二人が背中合わせにくっついたような形で、丸いからだをしていました。男と男がくっついたもの、女と女、そして男と女の組み合わせの、三種類の人間がありました。この男と女が一体となっていた人間のことを、アンドロギュノスといいます。
 これらの最初の人間たちは、神も恐れぬ不遜な態度だったので、大神ゼウスによってそのからだを二つに裂かれてしまいました。それ以来、人間たちは、かつての分身を求め合って恋をするのだといいます。
 男と女が求め合うのは、もともと一つのからだに男女両性をそなていたからというわけです。男と男、女と女で求め合うのは同性愛ということになります。
 以上は、プラトンの『饗宴』の中でアリストパネスという喜劇詩人が語ったお話。

ヘルマフロディトス

 ヘルメス(マーキュリー)はゼウスの子の一人ですが、盗みをしたり悪いことをする神でした。しかし音楽や占いの才能があったので、追放されずにゼウスの使者、伝令神に任じられました。翼のつい帽子をかぶり、手には一対の翼と2匹の蛇のまきついた杖を持ち、足にも翼のあるサンダルをはいた姿に描かれますが、畑や牧場の境に石柱の像として立てて祭られ、豊饒と商業の神で、旅人には日本の道祖神のようにも親しまれ、練金術の守護神ともなりました。
 アフロディティ(ビーナス)は、恋愛と美の女神ですが、もとは東方の豊穣多産の女神だったといいます。軍神アレスとの間に愛神エロスをもうけましたが、ヘルメスとの間にもヘルマフロディトスという美少年が生まれました。

 ヘルマフロディトスが、15歳で東方を旅したとき、泉のほとりで音楽を奏でていたニンフのサルマキスに出逢います。サルマキスは、一目で彼を見初め、あの手この手で誘惑しようとしますが、彼は一向に関心を示してくれません。
 ある日、泉で水浴びをしていたヘルマフロディトスを見つけたサルマキスは、彼のからだに思いきり抱きついて神に祈りました。「できることならこの身とヘルマフロディトスのからだと一緒になりたい」 。するとサルマキスのからだは泉の水煙となって消え失せ、ヘルマフロディトスのからだに変化が起こり始めました。美しい少年の胸は膨らみ、両性具有のからだとなったのです。
 以来サルマキスの泉で水浴びをする者はみな、両性具有になるといわれました。

 ヘルメスは占いや音楽などの女性的な文化を創造した神でもあり、もとはアフロデティと一体のアンドロギュノスだったのでしょう。キプロス島でヘルメスやアフロディティの神殿を祭る神官は、両性具有のヘルマフロディトスの姿になり、人工の乳房をつけ、女性の衣装を身にまとったといいます。

キュベレーとアッティス

 ゼウスの夢精がアグドスの山に滴り落ちて生まれたのがアグディスティスであるともいいます。アグディスティスは生まれながらに両性具有でした。乱暴者でもあり、彼を恐れた神々は、アグディスティスの男根を切り落として女神としました。
 切り落とされた男根からは杏子の木がはえて、その実を拾って食べたサンガリウス川のニンフが懐妊して生まれたのがアッティスです。彼は山羊に拾われて育ち、美しい少年に成長しました。
 このアッティスに密かに恋心をいだいたのがアグディスティスですが、アッティスの出生については知りませんでした。
 アッティスはペシヌス王の婿に迎えられますが、結婚式の場に、嫉妬に狂ったアグディスティスが現われ、アッティスと王女は発狂して自ら去勢して自殺しました。我にかえったアグディスティスは、アッティスの死を嘆き悲しんでゼウスに祈り、アッティスのからだが腐らぬようにしてもらったということです。アグディスティスの別名をキュベレーともいいます。

 別の話では、キュベレーはクロノスの妻レアと同一とされ、ゼウスの母、大神母です。羊飼いの美少年・アッティスを愛し、彼を神官に任命して自分を祭らせました。アッティスは他の女に恋をしない誓いを立てたのですが、若い彼は川のニンフのサガリティスと恋に落ちました。怒ったキュベレーはサガリティスを殺し、それを見たアッティスは発狂して自ら去勢して、命も断とうとしましたが、そのときキュベレーはアッティスのからだをに変えて生かしました。それ以来、松はキュベレーとアッティスの神霊のよりつく神木であり、キュベレーを祭る神官は去勢した男子と定められたということです。
 アッティスが去勢したとき流れた血が、菫(すみれ)になりました。祭の日には、一本の松を伐って菫の花で飾り、中央には美少年の像が付けられ、神と崇められました。アッティスの死は、豊饒をもたらす大地母神への生贄であり、神官たちは自らの身から流した血を献り、舞い狂ったといいます。キュベレーは小アジアの広い範囲で信仰された大地母神で、ローマにももたらされ、その信仰はキリスト教と対立しながらも長く生きつづけたといいます。
参考 南方熊楠『鳥を食うて王になった話』ほか。
リンク集の「ようこのとりかへばや物語」「バルバロイ」のほうが詳しく述べられています。

Arts at Dorian 〜ギリシャ神話(名画で見るギリシャ神話です)

"アンドロギュノス"の画像は「レイコのイリュージョンワールド」(閉鎖サイト)からいただきました。
『池上英洋の第弐研究室』リンク に同様の画像があり、「15世紀の写本、チューリッヒ中央図書館蔵」のものだそうです。
錬金術に関係する絵らしいです。錬金術とアンドロギュノス(鳩ぴあの)

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